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2022年01月27日 20:03
こんにちは、ENGI MAG編集部です!
「トカゲの尻尾切り」というと、トカゲが尻尾を切り離し外敵から逃げることになぞらえて、日本では「不祥事が起きた際に、立場が下の者に責任を押し付けて逃げること」を意味することわざがあるため、切り離した本人はほとんどダメージが残らない、という印象を持つ方もいらっしゃいませんか?
ところが、自切としてのトカゲの尻尾切りはまさに命がけ。
というわけで今回は、爬虫類の一種であるトカゲが行う本来の意味での「トカゲの尻尾切り」について、どんな仕組みで尻尾が切れるのか、なんのために尻尾を切り離すのか、全てのトカゲが尻尾を切り離す習性を持つのかなどについて、自然解説員である筆者が詳しく解説いたします!
まず、トカゲの尻尾切りは正確には「自切(じせつ)」といいます。
自切というと読んで字の如く「自ら尻尾を切断する」ものとされていることも多いのですが、このニュアンスがやや難しく、トカゲ自らが「よし切るぞ!」と思って切っているわけではなく、トカゲ自らの意思とは関係なく起きているいわゆる「反射運動」です。
反射運動は、人間で言えば膝の下あたりを軽く叩くと足が勝手に動いてしまうことがあるかと思いますが(膝蓋腱反射/しつがいけんはんしゃと言います)、そういった無意識で起こる反応・運動のことですね。
また、トカゲの尻尾は、基本的には人間の背骨と同じように小さな骨がいくつもつながってできています。
これを尾椎(びつい)と言い、尾椎と尾椎の間には軟骨が入っていて関節になっており、トカゲの尻尾のあのしなやかな動きが可能になっています。
この尾椎の周りを筋肉が覆い、表皮と鱗がその上に重なっているのです。
そして尾椎をよく見ると、一つ一つにひび割れのような切れ目が入っています。
この切れ目を「脱離節(自切面)」といいます。脱離節の周りの筋肉にも切れ目が入っていて、筋肉を含め切れやすくなっています。
勘違いされやすいのですが、骨と骨の間が切れるわけではなく、尾椎の中央あたりで切れます。
外敵などが来てトカゲがびっくりすると、この脱離節の周りの筋肉にキュっと力が入り、尻尾側の筋肉と胴体側の筋肉が引っ張りあうように力がかかることで、脱離節から尻尾を切り離しています。
この際なぜ血が出ないかと言うと、元々切れ目になっていることに加え、脱離節面の筋肉がすぐに収縮して、出血するのを防いでいるためです。
脱離節はほとんどの尾椎にあるので、尻尾の根元でも先端でも、脱離節のある場所であれば基本的にどこでも切ることができます。
ただし最終尾椎に脱離節がなかったり、脱離節の中にも切れやすい、切れにくいはあるようです。
自切の仕組みがわかったところで、そもそもなぜトカゲは自らの尻尾を切るのでしょうか。
野生のトカゲは、多くの敵に狙われながら生活しています。
そして実際に敵に襲われた時、自分の尻尾を切り離し、囮(おとり)にして逃げるための仕組みが自切であり、いわば防御手段として発達したものなのです。
トカゲを襲う肉食動物のほとんどは、トカゲの“動き”に反応します。
切り離した尻尾がしばらく(10分程度)ビタビタと動き回ることで、敵の注意がそちらに逸れるため、本体は逃げることができるというわけです。
このため、トカゲが危険を察知してストレスを感じると自切するようになっているので、特に尻尾に触れていなくてもいきなり自切することがあります。
トカゲの種類にもよって再生する期間は異なりますが、多くの場合自切した尻尾は数か月程度で再生することが知られています。(ただし尻尾が再生する種類のトカゲに限ります)
これも我々からみるととても不思議な性質ですが、傷口が塞がって皮膚が再生するのと原理は同じです。
しかしながらドラゴンボールのピッコロ大魔王の切れた腕のように、完全に元通りに再生するわけではありません。
まず、再生した尻尾には元通りの骨は形成されず、脱離節のない1本の軟骨だけが生成されるので、もう自切することができません。
つまり自切は生涯で一度きりの、まさに捨て身の行動なのです。
※ただし再生した部分ではなく、自切する際に切り離さなかった部分に脱離節が残っていれば、そこからもう一度自切することはあり、他にも切り離した尻尾を指でつついて刺激した場合、尻尾がさらにちぎれたりすることなどはあります。
これは、尾に自切の跡があるカナヘビです。よく見ると、途中から色が変わっていることがわかると思います。
このように、再生した尻尾は元のものよりも短く、色や模様も変わることが多いため、トカゲをよく見れば自切したことがある個体かどうか見分けることができます。
ちなみに、再生できるのはトカゲが自切した場合だけ(=脱離節で切れた場合だけ)です。
刃物で切断した場合や、むりやり引きちぎった場合、踏みつぶされた場合などは、尻尾を再生することができず、断面が傷口のように塞がっておしまいです。
なので、くれぐれも人間の手で切るようなことだけはやめてくださいね。
本州でよく見られるニホントカゲ、ヒガシニホントカゲ、ニホンカナヘビ、ニホンヤモリは自切します。
ところが、自切しないトカゲも意外と多いものです。
国内の例でいうと、沖縄などに生息しているキノボリトカゲは自切しません。
このため、尻尾をつかんで捕まえても切れてしまうことがありません。
キノボリトカゲが属する「アガマ」というグループのトカゲは、すべて自切しないことが知られています。
ペットとして知られているフトアゴヒゲトカゲも、アガマの仲間なので自切はしません。
また、イグアナの仲間、カメレオンの仲間、オオトカゲの仲間も自切はしません。
ちょっとややこしいのはヤモリの仲間で、自切するものと、自切はするが再生しないものがいます。
レオパ(ヒョウモントカゲモドキ)なども含めて、多くのヤモリは自切します。
ヤモリの中には再生する種類もいるものの、クレステッドゲッコーなどミカドヤモリの仲間は、自切はするけれど再生しない場合があります。
不用意にハンドリングして驚かせてしまうと、自切してしまってもう尻尾が生えてこないことがあるので、注意が必要です。
そう多い事例ではありませんが、飼育しているトカゲが自切してしまうことがあります。
先に述べた通り、切れるようにできている場所が切れているので、トカゲ自体への処置などは基本的に必要ありません。
下手に消毒などすると再生に影響するかもしれません。
もし土系の床材を使って飼っているのなら、細菌感染を防ぐため、傷口が塞がるまでは新聞紙やペットシーツを敷いて飼うといいでしょう。
注意が必要なのは、レオパなど尻尾が太いタイプのトカゲが自切した場合です。
尻尾に栄養をため込んでいることが多く、自切すると一気に栄養を失ってしまうことになります。
普段よりも高温で飼育し、たくさん食べさせましょう。
もちろん自切しないことが一番なので、自切するような強いストレスがかかる扱い方をしないように気を付けるしかありません。
トカゲの尻尾切りは、敵に襲われて逃げ場を失ったときの必殺技のような習性です。
再生するのに時間と労力がかかりますので、むやみに自切させないように気を付けましょう。
それではまた!
執筆・一部写真提供:GJ
編集・一部図面制作:端希(はしき/Twitter・Instagram)